STORY01

STORY02

STORY03

SWIMMING POOL

STORY 03

その街はどこにあるのか。
アジアの都市か、ヨーロッパの都市かもしれない。
風景からかろうじてわかるのは現代の大都市であるということだった。

わたしはホテルに居る。
何か作る時はいつも自分がいる場所から離れて、
自分を知る人がいない空間でひとりになる必要がある。
モダンな建築の室内で過去に同じ場所で過ごした人たちのことを想像してみる。

昼と夜の間、窓から光がまだ射し込む時間帯にラウンジへ向かう。
いつ始まったのかいつ終わるのかわからないエリック・サティの音楽が聞こえる。
ラウンジの角に、薄い緑がかった光の空間が目を引く。
そこにはバッグが並んでいる。

バッグのハンドルに付いた金色のチェーンの光が
室内の光を反射している。
反射した光の玉が丸い影となってレザーに映っている。
そのチェーンを覗き込むと曲面に反射した自分の姿が見える。
その姿は全く知らない人のように見える。

室内には、自分とどこか似ている人が立っている。
自分よりも歳上に見えるが、仕草が自分とよく似ている。
「あなたはそのバッグを長く使うことになるでしょう。」
すれ違いざまに、その言葉を残して去っていった。
その声は自分の声に似ていた。
その人は金色のチェーンをブレスレットのように身につけていた。

10年後、またホテルを訪れた。
新しいものを作るために。
わたしはバッグを持っていた。チェーンのブレスレットは腕に身に着けて。
ホテルのラウンジには、薄い緑の光に包まれた空間がまだ存在していた。

中に入ると、昔の自分にそっくりな人がバッグを眺めていた。
それは紛れもなく《自分》だった。
腕のブレスレットを見つめたあと、わたしは話しかけた。
「あなたはそのバッグを長く使うことになるでしょう。」

もうすぐ小説を書き終える。

COLLECTION 03

I do not know where it was, but it seemed to be a city in Asia, or Europe. Anyway, this story is about one of the modern megalopolises in contemporary society.

I am in a hotel.
Whenever I create something, I leave where I am and go to a space where no one knows me.
In a modern architectural interior, I imagine people who have spent time in the same place in the past.

I head to the lounge during the time between day and night when the light still shines through the windows. From somewhere, I can faintly hear Erik Satie's piano. But I don't know when it started or when it will end. A pale greenish space of light catches my eye in the corner of the lounge. Bags are lined up there.
The golden chains attached to the bag's handles reflect the greenish room light. The reflected beads of light are cast on the leather as round shadows. I looked into the chain and saw my reflection on its golden curved surface. The figure appears to be a complete stranger.
In the room stands a person who looks somewhat like me.
They look older than me, but their detailed gestures resemble mine.
"You will be using that bag for a long time."
As they passed each other, they left with those words.
His voice sounded like my own.
The man wore a golden chain like a bracelet.
ed into the store from the outside and saw a strange-looking clerk dressed in black. The clerk smiled at her. She could not tell the gender or age of the clerk, but she thought the black-dressed clerk looked very attractive. She walked into the store with some curiosity.

Ten years later, I revisited the hotel to write a new story.
I carried the bag and wore the chain bracelet on my arm.
The hotel lounge still existed, surrounded by a pale green light.
As I entered the space, I saw someone who looked exactly like myself looking at the bag.
It was unmistakably 《Myself》.
After staring at the bracelet on my arm, I said, "You will be using that bag for a long time."

I will soon finish my novel.

Story by BIÉDE
English version is supervised by Wayne Conti of Mercer Street Books & Records, New York

Chain Jewelry by Noon Passama(ヌーン・パサマ)

ヌーン・パサマは、オランダのアイントホーフェンとタイのバンコクを拠点に活動するアーティスト。ジュエリーの基本要素のチェーンに関する継続的な研究を行っている。素材の可能性を探ることから始まり、直感的な動作の瞑想によって作品を創作。何世代にもわたって使い続けられることを意図とした、個性的なジュエリーピースのコレクションは、手作業で仕上げられ、少量生産。一点もののジュエリーも手がけ、その一部はアムステルダム市立美術館、アムステルダム国立美術館に永久収蔵品として収蔵されている。ニューヨークのミュージアム・オブ・アーツ・アンド・デザインやパリ市立近代美術館でも展示を行っている。


@noonpassama

noonpassama.com

Photography by Quentin Shih

时晓凡|クエンティン・シー(a.k.a. シー・シャオファン)は、中国北京を拠点に活動するヴィジュアル・アーティスト、映画監督。彼の写真作品は、中国、アメリカ、ヨーロッパのさまざまなギャラリーで紹介されており、Dior、Louis Vuittonなどのラグジュアリー・ブランドとのアート・プロジェクトにも多数参加。最新の作品には、写真集「FAMILIARS」(2019)、長編映画「荒野咖啡馆(The Café by theHighway)」(2020)など。2021年にはShenzhen Museum of Contemporary Art and Urban Planning、West Bund Art & Designにて開催されたDiorによる展覧会「ART’N DIOR」に参加。


@quentin_shih

quentinshih.com