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COLLECTION03
SWIMMING POOL
COLLECTION 02
その街はどこにあるのか。
アジアの都市か、ヨーロッパの都市かもしれない。
風景からかろうじてわかるのは現代の大都市であるということだった。
∉
飛行機が着陸すると深夜を回っていた。
ボーディングブリッジを抜けて到着ロビーに着くと、空港の無機質な空間は
緑がかったような光を帯びていた。
多くの乗客は着陸の衝撃音で目覚めたばかりで、まるで夢遊病者のように
ラゲージをひいて入国審査へと向かっていった。
アナウンスと足音だけが閑散とした空間に響いていた。
カフェもギフトショップも閉じていた。
見慣れない記号の白いネオンサインがうっすらと灯るただ一つの店を除いて。
光るウィンドウの横を足早に人が過ぎていく。
深夜の空港の中で、その店に気が付いている乗客は私以外にはいないようだった。
光に吸い寄せられるように店に入ると、店内は壁、そして床も天井もアルミニウムで作られたような銀色の空間だった。
白い光が店内のあちこちに反射し、その光景は古いSF映画のワンシーンを思い出させた。
銀色の棚の上にはエアラインバッグが飾られていた。
バッグを手に取ると、銀色の手袋をした長い髪の店員がこちらを見て微笑んだ。
店員は琥珀色の瞳をしていた。
私はバッグを選び、買うことにした。
次の旅でこのバッグを使っている自分を想像した。
店を出る時、店員が私に向かって静かに呟いた。
“WELCOME TO BIÉDE”
∉
空港をどれくらいの間、歩いていただろうか、私はバッグに黒い鍵がかかっていることに気付いた。
錠には白いネオンサインと同じ、見慣れない記号の刻印がされていたが、
鍵は見つからず、それを開けることはできなかった。
夜明けまでにはまだ時間があったが、タクシーの車内から見える空の色は深い青に染まっていた。
街はまだ眠っている。
家に戻ると、黒猫が見慣れない黒い革の首輪をつけてソファに座っていた。
首輪の金具には黒い小さな鍵がぶら下がっている。
ソファの上に置いたバッグに向かって猫が鳴き始めた。
私は首輪から鍵を外して、バッグの錠の鍵穴に挿し込んだ。
鍵は古い時計の針が進んだときに鳴るようなカチリとした乾いた音を立てた。
鍵が開いた。
バッグを開けると地図が入っていた。
“WELCOME TO BIÉDE”
∉
私はバッグと地図を持って街に出た。
高速道路から見る早朝の街は、薄い赤みを帯びていて、フィルターを通して見ているような感じがした。
地図が示す場所は、路地にある古いビルだった。
看板の無いそのビルの中に入ると、焼き菓子のような甘い、どこか懐かしい匂いがした。
灰色のドアの奥から、空港で時折耳にするような、異国の言葉が混ざり合って聞こえた。
私はそのドアをゆっくりと開けた。
∉
遠くから搭乗のアナウンスが聞こえた。
私は空港の出発ゲート前で、トランジットの飛行機を待っていた。
遠く視界の片隅で、あの白いネオンサインが光っているのが見えた。
Story by BIÉDE
English version is supervised by Wayne Conti of Mercer Street Books & Records, New York
Chinese version is translated by Hui QUAN (権慧) of The Waseda International House of Literature (The Haruki Murakami Library)
Photography by Quentin Shih
时晓凡|クエンティン・シー(a.k.a. シー・シャオファン)は、中国北京を拠点に活動するヴィジュアル・アーティスト、 映画監督。Beijing Art Now Gallery (北京)、 Inception Gallery(Paris)、Galerie XII Los Angeles(Los Angeles)で作品が紹介されている。過去にDior、Louis Vuittonなどのラグジュアリー・ブランドとのアート・プロジェクトにも参加。最新の作品には、写真集「FAMILIARS」(2019)。また長編映画「荒野咖啡馆」(The Café by the Highway)」(2020)が公開予定。2021年9月26日から10月26日まで、Shenzhen Museum of Contemporary Art and Urban Planningにて開催中のDiorによる展覧会「ART’N DIOR」に参加。