STORY01

STORY02

STORY03

SWIMMING POOL

SWIMMING POOL

その街はどこにあるのか。
アジアの都市か、ヨーロッパの都市かもしれない。
風景からかろうじてわかるのは現代の大都市であるということだった。

彼女が歩いているとき、しなやかな猫のような人が、
高架下の銀色に光る扉から中に入っていくのが見えた。
その人と同じバッグを彼女は肩にかけていた。

扉はひんやりと冷たかった。
少し迷ってから、彼女は中へ入ることにした。
そこはバーのような空間だった。
室内の床と壁は扉と同じ銀色で、薄暗い光の中で鈍く光っていた。

猫のような人はカウンターの中に立っていた。
彼女がカウンターに近づくと、猫のような人がこちらに顔を向けた。
深い海の底を見つめているかのような瞳だった。

「プールから帰る途中、銀色のドアを見つけました。」
彼女は猫のような人に話しかけた。
銀色の空間はチェロの音に満たされていた。
壁は光だけではなく、音を反射し、時折、旋律が歪み、
遠いところから聞こえてくるような気がした。

カウンターの端には小さな黒いバッグが置いてあった。
彼女は再び言葉を続けた。
「そのバッグ、私も同じものを持っています。
バッグを買ったこの場所に在った店は、
もうなくなってしまったのですが。」

彼女は猫のような人が着ている黒色のジャケットが、
今まで見かけたことのないような、
変わった形であることに気がついた。
建築的で、幾何学的な形が貼り合わされ、機械のようなものを思わせた。

「私のバッグとあなたのバッグ、そして私が着ているジャケット。
すべて同じ店のものです。」
猫のような人はようやく口を開いた。

そしてジャケットのポケットから、静かに手を差し出し、
小さな14面体の黒いオブジェクトをテーブルに置いた。
そこには前に店で見たネオンと同じ記号が彫られていた。

「この世界では、見えるものだけがすべてではありません。
現実と、一見現実に見えないようなものが交差する場所もあります。」

「もしかするとこの場所がそうかもしれない。」
彼女は心の中でそう思ったが、言葉にはしなかった。

「私たちは選ばれたのかもしれません、あるいは、
私たちが選んだとも言えるかもしれません。
この場所は、互いの存在を確認する場所なのです。」

銀の扉のバーを訪れてから数日後、プールへ行った。
早朝の時間帯、まだ誰もいないプールに日が差し込み、
水面は静かで、まるで鏡のように朝の空を映し出していた。

早朝の空気にはどこか緊張感があり、
何かが始まろうとしているかのようだった。

プールサイドには等間隔に椅子が置かれていて、
彼女はその一つに座って静かに水面を眺めた。
朝の光が徐々に強くなり、光が窓を通り、
コンクリートの壁を照らしながら水面に落ちた。

水面を切る波紋に黒い小さな影が映っていることに気がついた。
黒猫が、彼女のことをじっと見つめていた。
しばらくの間、こちらを見ていたのかもしれないと思った。
視線を交わすと黒猫は歩いてどこかに去っていった。

反対側のプールサイドの椅子には、バーへ行った夜に見た
黒いジャケットがかけられていた。
幾筋の光が、ジャケットの幾何学的なデザインの細部を照らしていた。
眩しさで目を閉じると、彼女の視界に幾何学模様が広がった。

COLLECTION 03

I do not know where it was, but it seemed to be a city in Asia, or Europe. Anyway, this story is about one of the modern megalopolises in contemporary society.

I am in a hotel.
Whenever I create something, I leave where I am and go to a space where no one knows me.
In a modern architectural interior, I imagine people who have spent time in the same place in the past.

I head to the lounge during the time between day and night when the light still shines through the windows. From somewhere, I can faintly hear Erik Satie's piano. But I don't know when it started or when it will end. A pale greenish space of light catches my eye in the corner of the lounge. Bags are lined up there.
The golden chains attached to the bag's handles reflect the greenish room light. The reflected beads of light are cast on the leather as round shadows. I looked into the chain and saw my reflection on its golden curved surface. The figure appears to be a complete stranger.
In the room stands a person who looks somewhat like me.
They look older than me, but their detailed gestures resemble mine.
"You will be using that bag for a long time."
As they passed each other, they left with those words.
His voice sounded like my own.
The man wore a golden chain like a bracelet.
ed into the store from the outside and saw a strange-looking clerk dressed in black. The clerk smiled at her. She could not tell the gender or age of the clerk, but she thought the black-dressed clerk looked very attractive. She walked into the store with some curiosity.

Ten years later, I revisited the hotel to write a new story.
I carried the bag and wore the chain bracelet on my arm.
The hotel lounge still existed, surrounded by a pale green light.
As I entered the space, I saw someone who looked exactly like myself looking at the bag.
It was unmistakably 《Myself》.
After staring at the bracelet on my arm, I said, "You will be using that bag for a long time."

I will soon finish my novel.



Photography by Tsukasa Kudo