COLLECTION 01
IN COLLABORATION WITH QUENTIN SHIH
その街はどこにあるのか。アジアの都市か、ヨーロッパの都市かもしれない。 風景からかろうじてわかるのは現代の大都市であるということだった。
彼女はある夜に夢を見た。霧と蔦におおわれた古い建物の鉄の扉を開けると、 淡い月の光が映った壁に記号のようなものが浮かんでいた。 彼女にはそれが何を意味するのかはわからなかった。
∉
それから数日が経った。 彼女は仕事の後、少し遠回りをして家に帰ることにした。 0時を回っていたが、いつもは通らない路地を選んだ。
どこも店は閉まっていた。 ただ一軒だけ、淡い光が灯っている店が見えた。 ショーウィンドウにはバッグが飾られていて、そこはブティックのようだった。
外から店の中を覗くと、黒い服に身を包んだ不思議な風貌の店員がいた。 その店員の性別や年齢はわからないが、 その人は微笑みを浮かべ、とても魅力的に見えた。 彼女は何だか気になってその店に入った。
彼女はそこでバッグを手にとった。 バッグには記号が刻印されていた。 その記号が夢に出てきた記号なのか、確信はなかった。 もしかしたらデジャヴかもしれないと思いながら、鏡に映る自分を見た。 彼女はそのバッグを買うことにした。
翌日の夜。 彼女はもう一度ブティックのある路地を歩いてみた。 昨晩バッグを選んだブティックの場所まで歩くと、 そこは何もない空き地になっていた。 昨日訪れたブティックはどこにもなかった。 空き地の真ん中から黒い猫がこちらを見ていた。
1年後。
その後、そのブティックを見かけることはなかった。 彼女はいつもそのバッグを持ち歩いていた。 本を好きな人がいつも本を持ち歩くように。
ブティックがあった空き地はバーに変わっていた。ある日、彼女がそのバーの前を通ると、しなやかな猫のような人が入っていくのが見えた。不思議なことに、その人が持っていたバッグは彼女があのブティックで見かけたものと同じものだった。それを見て、彼女はバーに入ってみることにした。
部屋は暗く、彼女には人の姿がよく見えなかった。 バーは静かだったが、人の気配からカウンターには、 7、8人の人が座っているような気がした。
囁き声と、かすかにピアノの音が聞こえた。 眼を閉じて耳をすまして会話を聴くと、そこにいる客たちは互いのことを 知らない様子だった。 彼女は夢でこの場所に何度か来たことがあるような気がした。 バッグに金色で型押しされた刻印が、暗い空間の中でかすかに灯る 部屋の光を反射していた。